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翌日。
手元の腕時計は午前六時二十五分を指している。
屋根瓦付きの堂々たる門の前に、俺は着替えを適当に入れた鞄を持って立っていた。
懐かしい。
何年振りだろうか。
門構えと、ぐるりと囲われた塀を見回し、あの頃と変わりがない事を確認する。
少し小さく感じるのは……多分、俺の身長が伸びたせいだ。
そして、陽のまだ昇らない薄暗がりの中、その門の脇にある小さな使用人用の扉を押し開け、俺は屋敷の中へと入って行った。
長である市川さんや調理場の人と再会の挨拶を交わし、その後 俺は自分の部屋へ歩み進んだ。
一歩入れば、また見渡し、懐かしさを噛み締める。
定期的に掃除はされていた様だが、
「……ここも、あの頃のままだ」
机も本棚も、ベッドも壁の掲示物も。
青臭かった頃のまま。
変えなきゃな。
……だけどただ一つ、違うもの。
ハンガーに掛け吊るされた、新調された着衣。
俺は手荷物の鞄を置き、それを手に取った。
これが、今日から俺の仕事になる。
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