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戸惑いながらも、僕の指示に従ったミューラ・ビスランディに対し、質問を投げる。
「ブラドの素性について、どこまで知った?」
「ブラドさんが、ナトゥーリア家出身である事以外、なにも知っていません。――え?」
強制的に回答させられたことに、ミューラ・ビスランディが驚く。
「え、え? 今のなんですか?」
「うるさい。そういう効果だよ」
「あ、う、すいません……」
ミューラ・ビスランディが、僕の言葉に小さくなる。
それにしても、嘘は言っていなかったのか。感心だ。てっきり、僕に怒鳴られるのが怖くて、嘘を言っているものと思っていたが……。ただ気弱というわけでもなさそうだ。だいぶ腹をくくって来たのだろう。
少しは見直してやるべきかな。いや、それは早計すぎか。
「それで、ブラドのところに行って、なにをするつもりだったんだい?」
伏し目がちに、ミューラ・ビスランディが答える。
「まず、謝ろうと思いました。後のことは……なにも……」
「そうか。なら運が良かったね」
「え?」
ミューラ・ビスランディが顔を上げる。意味が分からないといった風な彼女の顔を見つめ、にっぱりと笑いかける。
「相当恨んでるし、謝ったりしたら、殺されてたよ?」
「そう、ですか……」
彼女はまた、伏し目に戻る。心なしか、微笑んでいるように見えるのは、どういった理由なのだろうか。哀愁を漂わせる微笑みが、嬉しそうに感じた。
「なんで、笑ってる?」
「いえ、ただ、ほっとしたんです」
ホッとした? どういうことだ。
「何を?」
「許されたいという気持ちはあります。でも、許されてはいけないことを、私はしました。正当な恨みですし、それに上乗せするようなことをした私が、ただ殺されるだけで罪滅ぼしになるんだって、思いまして。それだけの価値が、私にあったなんて、思いもよらなかったです」
ミューラ・ビスランディは、にこりと笑った顔を僕へと向ける。
「本望です」
聞いた時、僕の体を怒りが支配した。右手が振り切られ、ミューラ・ビスランディの頬を勢いよく叩く。
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