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「言え!」
何を見た? どこまで知った? この女は!
僕の怒声に、ひるみはしたものの、ミューラ・ビスランディが混乱した様子はうかがえない。それどころか、予想出来ていたかのように、僕には見える。
腹立たしい。このアマぁ!
「言えっつってんだろうが!」
「ブ、ブラドさんが、ナトゥーリア家出身、とだけです」
ようやくミューラ・ビスランディが絞り出した告白に、肩と鷲掴みにしている両手の力が、一気に抜ける。よほど興奮していたのか、息苦しく感じ、自然と肩で息をした。
一度深く息を吸い、ゆっくりと吐き出しながら、ミューラ・ビスランディから身を引いた。我に返った僕は、ミューラ・ビスランディと揃って紅茶をかぶっている事に、気が付いた。クッキーも床に散乱している。皿は大丈夫だろうか。
僕は落ち着いて、再びミューラ・ビスランディを見る。涙は止まったようだが、唇が震えていた。
「それは、本当か?」
丁寧な口調に戻すこともはばかられ、僕は自然体で問いただす。怒鳴ったことを謝らなかったのは、単なる意地だ。
僕の怒りが再燃することを恐れるように、ミューラ・ビスランディが小さく口を開く。
「はい。……ブラドさんがグレイド家の養子になったっていう一文を読んだ後、すぐに本を閉じてリセットしたんです。なので、それ以外は、なにも……」
僕の目を見たままの彼女の瞳に、嘘偽りは無いように思えた。だがしかし、“そんな事”をしでかした女だ。信用にはまだ足りない。
あの魔法具を使って確かめてみよう。僕はすぐに思いつき、ミューラ・ビスランディに一言入れて自室へと行く。本棚に立てた、厚紙装丁された手帳サイズの本の形をした魔法具『八百万の契約書』を手に、ダイニングへと戻った。
ミューラ・ビスランディの座るソファの脇に立ち、彼女の頭に軽く『八百万の契約書』を置く。
「あ、あの、それは?」
困惑気味に説明を求められる。
「嘘かどうかを確かめるための魔法具さ。僕に嘘をつかない、とだけ言ってくれればいい」
「え、えーと。……私は、アイリスさんに嘘をつきません」
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