第四章 2 白翼妖狐

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 紅茶のシミが白く淡い光とともに浮き出し、風前のロウソクの火のように、ふっと掻き消える。着る物はこれで心配いらないだろうと見切りをつけ、丁寧に畳んだ後、バスタオルの隣に置く。シャワーのお湯が床を叩く雨のような音と、ぴちゃぴちゃと薄く水を張った床で足を動かす音が聞こえ始めるころに、僕はダイニングへそそくさと戻った。  足の短いテーブル上で、光を反射しながら下のカーペットに滴を落とす紅茶の水たまりが、窓の光を反射していた。先ほどやってみせたように、手慣れた手つきで浄化魔法を部屋中に振り撒く。  テーブル上の零れた紅茶からカーペットのシミ、床に散乱したクッキーとそのカス、家具の上の埃(ほこり)、台所の油汚れまでが発光して浮き上がり、ふ、と姿を散らした。僕はカーペットのシミがあったところにしゃがんで手を当て、水気まで取れているかを確認する。結果はもちろん、満足のいくものだった。  立ち上がり、足場にした際ずれてしまったテーブルと向かい合うソファを元に正し、床に放り出されたままの丸い皿を拾い上げ、紅茶のカップともども台所へと運びこんだ。  自分で散らかしたダイニングの清掃を簡単に終えた後、ソファにどかりと深く腰を下ろした。自然と溜息が漏れ出し、俯く頭と同じように気分が沈みこんだ。  いくらブラドの事とはいえ、まだ十七ほどの少女を相手に大人げなく激昂したことが、ひどく悔やまれる。いまさら大人ぶってもしょうがない僕だが、他に伝える方法は無かったのかと考えることは止められない。まさにこれは後悔だ。  ブラドには説教をたれた挙句の果て、誓いすら立てさせたのにも関わらず、ミイラ取りがミイラになった状況。よくよく自戒せねばなるまい。  物思いにふけっていると、ダイニングのドアノブががちゃりと捻られる音がした。振り返って目を向ける。僕が浄化した制服を着崩したミューラが、まだ湿り気を残す長い青色の髪の毛をバスタオルで挟んで、丁寧に拭きながらダイニングへと戻って来た。頬は薄らと上気していて、桜色の唇と相まって可憐に映える。
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