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「え、どういうこと?」
疑問を自然と口にした。口を動かすという感覚は全くないが、声は出るようだ。声が聞こえることから、聴力もあることが分かる。
「お答えしましょう」
中性的で優しい声調の声が、突如としてこの空間に満ちた。思わず、小さな悲鳴を上げる。
「稲葉(いなば)瑞穂(みずほ)。あなたは小さな未来を救い、自らの命を失いました。その自己犠牲(じこぎせい)に敬意を表し、あなたに新たな人生を送るためにこの空間にお呼びしました」
淡々と、その声は僕へと語った。
「この空間?」
一度区切りがついたような沈黙に、僕は疑問を呈(てい)する。一拍置いて、声が問いに答える。
「世界と世界の狭間(はざま)とでもいいましょうか。この空間は遥か宇宙の果てにある『無(む)』に造られた、頂上界という世界の一端です」
メルヘンを聞いたわけではないが、それ以上の返答はない。しかし、この光景の事を考えれば、あながち嘘でもない気がする。僕は質問を続ける。
「あなたは誰ですか?」
「あなた達の概念上では、全知全能の神と表現しましょうか。正確に答えるならば、創造主です」
その回答を聞いた時、僕は思う。これは夢であると。おそらく僕は今、市内の病院の白いベッドの上で眠りこけているに違いない。そうでなければ、走馬灯から派生した経験のないただの妄想か。そう思うと妙に納得する。
「そうですか」
僕はそう言っておく。少しの問答に平静を取り戻せた僕は、どうせならば楽しそうな展開へと持って行ってしまおうかなどと考え、話を続ける。
「新しい人生というのは、一体どういうことなんですか?」
「あなたを異世界へと転生させ、そこで新たな人生を送っていただきます。そこでは魔法が科学という、そうですね、あなたにとってファンタジーとも言える常識が存在します」
「へえ」
僕の様子もお構いなしに、声だけの神様は続ける。
「ご安心ください。あなたが快適な人生を送れるよう、手配させていただきますね」
「どうも、ありがとうございます」
「では、あなたの願いを三つまで叶えましょう。どのような願いをお持ちですか?」
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