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願いは何かなんて、漠然(ばくぜん)としていてよくわからない。とりあえず、今、最も強く願うとするならば、
「母さんと父さんに会いたい」
これ以外にはあるものか。これ以上に率直な願いがあるものか。これが夢ならば、叶うはずだ。それがただの僕自身の妄想でも構わない。僕は、もう一度だけでも両親に会いたい。
自らを神様と名乗る不思議な声が言う。
「それは叶いません。説明不足でしたね。願いというのは、あなたが転生後に会得しておきたい能力についてのみ、叶えることができます」
がん、と頭を叩かれたような錯覚を覚えた。まさか、そんな理由で望みが却下されるとは、思いもよらなかったからだ。しかも、そう言われたことで現実味が増した気がする。
それでよくよく考えてみれば、あのスピードの2トントラックに正面衝突しておいて、生き残っていられるとは考えられない。アニメや漫画、ゲームに疎(うと)い僕には、トラックに轢(ひ)かれても生きていられるなんて、現実離れした考えはない。
そうか、僕は死んだんだ。
「……そっか」
僕が納得するのを待っていたのか、見計らったようなタイミングで神様は言う。
「願いを」
寂寥(せきりょう)とした心を紛らわせるように、僕は半ば無理矢理、気持ちを入れ替える。
「魔法、か。まずはその魔法っていうのを教えてもらえませんか? 願いはその後でお願いします」
「いいでしょう。魔法とは、自然に対して命令し操る術の事をいいます。様々な形態があり、それらを属性と呼び習わします。これらを行使するには魔力が必要となります。端的に言えば、こんなものですね」
説明を終えた神様は口を閉ざす。おそらく言うことを言い切って、僕の願いを待っているのだろう。ならば、今までに貰った情報をもとに、願いを考えなければならないか。頭の中を整理するために、一つ一つ考察を試みる。
まずは、今から行く世界の説明としてあった「ファンタジー」という単語だ。僕の知っているファンタジーで考えるならば、中世の西洋に恐ろしい魔物と魔法がまず上げられる。ならば日本とは違い、戦うことも頻繁(ひんぱん)にあるのではないだろうか。
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