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返事を聞き、タガレットはさらに問う。
「都合のいいネタは?」
意味をすぐに理解し、首を振って答える。
「ないです。現状では、そうさせるのも無理な話かと」
編入した翌日から仲を疑われていた二人だ。はたから見れば、当然の流れであり、そこに付け入る隙があるとも思えない。それにもし、二人を破局させられるような情報を持っていたとしても、タガレットに教えるつもりもなかった。
それと、セレスはアイリスとブラドの婚約を、心の中で祝福している。仲を保つような協力ならまだしも、破局など論外だ。
セレスの回答に、タガレットは心底困ったように眉を潜めた。
「やはり、フェルナンド家は一筋縄にどうこう出来る相手じゃないな……。こんな形で先手を取られるなんてね。まさか気づいているのか?」
その可能性は充分に考えられた。
アイリスは一度、兄・ブラドが監禁されている場所をタガレットに聞いている。だがしかし、当日には姿を現さなかったどころか、ただの一度たりともその話には触れなかった。もしかしたら、フェルナンド侯爵に知られており、制止がかかっていたのかもしれない。だとすれば、タガレットの考えている計画はすでに頓挫(とんざ)しているといえるだろう。むしろ窮地にさえ立たされているのかもしれない。
その可能性に頭を悩ます愚兄(ぐけい)を、セレスは不快に思いながら見守る。
「おじい様の計画に穴が開くのは、本当に心が痛いよ」
言うタガレットは、どこか祖父の面影を残している気がする。果ての無い野心など、その片鱗にすぎないのではなかろうか。
セレスは、今では祖父の考え出した亡き兄を使った計画に反対なのだが、もうここまで来てしまった上に、初めは協力さえしていたことを思うと胸がつかえて何も言えなかった。後悔しても、もう遅すぎる。
悔いても悔いきれない思いが、胸中をいつも締め上げた。
「少しづつ修正しながら、計画通りに進む様に手を打つ必要があるな。セレスも協力してくれるだろう?」
「え、ええ。もちろんです」
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