第九章 1 兄

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 この嘘をつくのも、これで何度目になろうか。セレスは毎度確認をとってくるタガレットに、心底呆れた。  しょせん、ナトゥーリア家を除いた他の六大貴族らを手中に収める陰謀は、絵空事にすぎない。どうして、そんなことにすら気が付かないのだろうかと、セレスはいつも思っていた。 「では、私は戻るよ。また話し合おう」  タガレットはセレスの返事に満足したようで、にっこりと笑って席を立った。セレスは裏口へと消えていく愚かな兄の後ろ姿を、目を細めて見送った。   *  いまだなお、二人が寄り添って寝ればわずかなスペースしか残さないが、それでも大きなベッドの左半分は、セレスの領土だ。いつのもように領土に仰向いて寝そべり、天井を睨む。  天井に残る小さな傷跡を見つけ、ああ、そんなこともあったな、とぼんやりと思いだす。たしかあれは、魔力検査をしていない時期のブラドが、面白半分にペーパーナイフを振り回し、その結果、遠心力に力負けして飛んでいったそれが刺さった跡だ。いつまでも天井に刺さるそれを、戦々恐々とした面持ちで見つめるブラドがおもしろくて、ついつい笑ってしまったものだ。  あの頃は、本当に楽しかった。  双子なのに見た目が違う兄妹(きょうだい)は、どこへ行くのも一緒で、やる遊びは決まって二人でするものばかりだったのを、今でも覚えている。  夜になれば、このベッドの右半分に大の字で眠っていた。  なんでも自分の先を歩く兄は、タガレットよりもよほど素晴らしい兄だったのだが、魔力検査がそのすべてを変えてしまった。  セレスは、何故虐待に加担したのかをはっきりと覚えてはいなかったのだが、おそらく裏切られたように思っていたのだろうと考える。  その兄は、誕生日を境に姿を消した――いや、消された。実行犯は寝たきりだった祖父ではなく、ほぼ間違いなく父だ。自身の息子を殺せてしまうなんて、我が父ながらセレスはおぞましいと思う。この血が脈々と受け継がれていると考えるだけで、セレスは吐き気がするようだった。
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