第九章 1 兄

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 ナトゥーリアの家系に嫌悪感を抱いているからだろうか、それとも亡き兄の面影を追っているからだろうか、セレスは不思議と編入生・ブラドの事を尊敬のまなざしで見ている。そんな資格があるはずもないのに。  寝返りを打ち、右半分へと体を向ける。誰もいるはずもないベッドの右の領地に手を伸ばし、シーツをぽんぽんと軽く叩いた。  怖い夢を見て飛び起きた兄の肩を、眠るまで叩いてやった日の事。おねしょをしてしまい、怒られることを恐れていたセレスを庇い、寝る場所を変えてくれた事。夜遅くまで話し込んで、翌朝起きれなかった事。たくさんの思い出が、このベッドには詰まっている。  それを忘れ、兄を虐待したのだ。ぐらり、と視界が歪む。いつものように、夢が現実と混ざり合うかのように、脳裏を駆け巡り始めた。シーツの白が、祖父の愛用していた真っ白なタキシードへと姿を変えた。  祖父は真っ白なタキシードを愛用していた。口の周りを覆う白い髭(ひげ)と禿げることなく白髪へと変わっている頭が自慢の、痩せこけた老人は、産まれたばかりのブラドを大変可愛がったと聞いている。  直接触れ合うことはなかったにしても、遠まわしに守ろうとしていたことは、彼の日記に記されていたという。  その祖父は、ことあるごとに、ブラドに何かを吹き込んでいたようだが、内容はまったく理解出来なかったとブラドから聞いたことがある。  だからこそ、魔力検査をした直後の彼の荒れようは凄まじかった。さんざん怒鳴り散らし、八当たりして、最後にはブラドを監禁するよう指示を出したのだ。当時、何故祖父が怒っていたのかは、セレスには分からない。しかし、そこに並々ならぬ理由があることだけは確かだった。  それから少しして、何を思ったのか、他の貴族の子らも含めて虐待が始まった。  拙(つたな)い魔法では大した怪我にはならないため、最初はブラドも表情を変えることなく耐えていたのだが、行為がエスカレートしていくにつれて、そんなことも出来なくなっていった。
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