第九章 1 兄

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 やめてと懇願するブラドに、情け容赦なく魔法を叩きこむことが当たり前のように思っていた。しかし、やがてそれすらも無くなり、ついには人形のように無反応な人へと変わった。  そういえば、不思議なことにある時期から、ブラドの血色が良くなっていっていたことを思い出す。その時はただ首を傾げただけだが、今になって考えてみると、誰かが傷の手当てをしたりしていたのではないだろうか。そんなことが出来る場所ではなかったはずなのだが、可能性としてはゼロではない。もしそれで、その人が兄を外に逃がしてくれているのならば、それほど嬉しいことはない。それこそ、ありえないが。  ミューラがブラドの手に穴を開けた時のことを、連鎖的に思い出した。  ミューラは、彼の手に開いた穴とおびただしい出血量に青ざめ、その場から走り去った。セレスら残りの少年少女らも、悲鳴を上げてうずくまるブラドの姿を見て、さすがに恐ろしくなり、我先にと逃げ出した。その後――誕生日前日の朝、こっそりと様子をのぞきに行った際に確認したところ、傷跡は完全に無くなっていた。血色なども良く、古傷さえ無い事に安堵し、静かに立ち去ったのだが――その日の夜、兄は姿を消された。  兄の死を聞かされた時、胸の奥にぽっかりと穴が開いたようだった。  知らず知らずの間に涙があふれ、悪い夢から覚めたような錯覚を覚えた。最初は意味が分からなかったのだが、地下牢に足を運ぶたびに兄の姿を望むごとに、ずっとそばに居て欲しかったのだと気づき、後悔した。  過去に戻れるのならば、セレスはあの時に戻り、人生をやり直したいと強く願っている。しかしそれは、絶対に叶う事はない。  深いため息をつく。  こういった思いを、みんなも感じているからこそ、タガレットの精神的支配を主とする六大貴族の支配は可能となるのだろう。人の良心につけこむ、いやしい行為だ。
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