第九章 1 兄

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 祖父の陰謀の全容は知らないし、タガレットもそのような事は言っていた気がする。六大貴族を手中に収めることの先にありそうな事と言えば、国を乗っ取るくらいしか、セレスは考え付かない。  もし仮にそれが間違っていたとしても、野心の強いタガレットのことだから、国を作ろうとするに決まっている。だが、天帝という存在が王国サイドについていることを加味すれば、それも不可能に違いない。やはり、タガレットの野望は成就しない。  セレスはタガレットの野望の顛末(てんまつ)を予想しながら、ふと、祖父の日記の事を思い出した。発見者である父は、決してセレスに内容を見せることなく、口頭で伝えたのだが、その様子は非常におかしかった。  父は感情を押し殺したような表情の裏に、鬼のような憤怒の面相をちらつかせていた。それは単なる祖父への怒りだと思っていのだが、その内容が今は無性に気になる。  あの日記には、いったい何が記されていたのか。  セレスはベッドから身を起こし、大きな伸びをする。  日記はおそらく、祖父から父が受け継いだ書斎に仕舞われているだろう。この時間帯は書斎で書類に目を通したりしているが、今日は幸運なことに外出して朝から居ない。帰りは夜になるとの事だから、書斎を捜索する時間はたっぷりとある。  セレスは早速、書斎へと向かった。途中、使用人や家族に見つかっても厄介なので、適当に遠回りしながら全員の位置を確認し、ようやく書斎の前へと辿り着く。両開きの扉を前にして、もしかしたら父が室内にいるのではないかと怯えが生じ、弱くノックをすることにした。  小気味良いノック音への返事はない。セレスは緊張に胸を高鳴らせながら、そっと片側の扉だけを開く。書斎内に首を突っ込み、無人であることを確認してから、素早く書斎へと入り込んだ。後ろ手に扉も閉め、ほっと息をつく。
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