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とはいえ、部屋の隅に置かれている小さな収納棚の引き出しくらいしか置いていなさそうだ。さすがに談話室には無いだろうとふんでいるので、手早く収納棚の中を確認し、隣の部屋へと移動した。
寝室ならば、寝る前に日記を書きそうなものだ。セレスは期待を胸に、ベッド脇に置かれている小さなデスクと本棚に目を向ける。書斎に置かれていた本とは違い、こちらは物語が多いようだ。寝る前に少し本を読むことが習慣だったのだろう。デスクの上に整然と立て掛けられている本を見ていくと、見覚えのある背表紙を見つける。すかさず手に取る。日記だ。
「あった!」
思わず歓声を上げる。と、
「誰か居るのかい?」
談話室の向こうから、大声が響いた。驚きに息を詰まらせたが、すぐに声の主がタガレットだと気が付いたセレスは、慌てて息を殺した。
きい、と談話室の扉が開けられた音が静かに寝室に入り込んでくる。タガレットが声の主を確認しようと、祖父の部屋に入ってきたのだ。セレスはなるべく慎重に身をかがめ、寝室の扉からは死角となるベッドの隅に潜む。寝室のドアノブが微かに動いた。金具が動作する音が鳴り、いよいよタガレットが寝室へと入ってくる。このままだとばれると判断したセレスは、日記を小脇に抱え、這いずる様にベッドの下へと潜り込んだ。
ばれたら、なんて言い訳をしよう。セレスが祖父の部屋に入り込む理由など、あまりない。破たんしている陰謀に関して、人をコントロールしたがるタガレットが、独断で行動したセレスを許すはずもない。それに加え、祖父の日記をタガレットに見つけさせるわけにはいかない。ぐっと、息を止める。
タガレットは静かに寝室の絨毯の上を歩いているのが、ベッドの隙間から覗(のぞ)く彼の足から判断できる。ざっと辺りを見渡しているのだろうか、一度立ち止まった足が衣裳部屋へと消えた。
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