影に立つもの

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「変態(しんし)だね、キミは」 「そうさ、オレはいつも紳士だ」 「いや、多分違う意味。ああ、でも、人をまじまじと見るのは紳士じゃないよね?」 「じゃあ紳士じゃない」  僕の顔ではなく胸しか見ないタルトの鼻から、たらたらと鼻血が垂れ始める。  それからだんだんとしゃがみ、その場にあぐらをかいて座る。それに従い視線も下がり、座り込む頃にはタルトの頬はプールサイドのざらついた床にぴたりとくっついていた。  あれだろう? あれをパンツ以外のシチュエーションで拝もうとしてるんだろう? (だがしかし!)  僕はそれにあわせて体育座りから女の子座りへと移行し、膝に両手を添えて見事に隠す。 「な、なんだと!?」  タルトが変わらぬ姿勢で驚愕に目を見開き、絶望感に満ちた声を上げる。  それと同時に背後でベアリスが動く気配がして、僕とタルトに影がかかる。そして次の瞬間、タルトの捻れている腹部に蹴りが入る。 「ぐふぅっ!?」  さすがベアリス、タルトに対して容赦がない。耐久力の高いタルトでも、衣服のない腹への直接的な打撃には耐えられないらしく、涙目になり腹を押さえて悶え始める。 「ん? なにしてんだ?」  そこへ丁度、プールサイドへとやってきた体育教師がタルトを見てから、ベアリスへと聞いた。 「タルトがいつも通りだったので……」 「ああ、なるほどな」  納得する教師。  入学式から3ヶ月が経過した今、タルトの性癖を知らぬ教師は居ないに等しい。それだけの奇行を、授業以外での場でも繰り広げていたのだろう。  さすがタルト、変態として抜かりがない。
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