影に立つもの

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「よぉし、いよいよプール開きだな。準備体操すっから間隔あけろ~」  体育教師はタルトを完全に無視して指示をだす。  僕は立ち上がり、両手を広げた時に左の人とお互いにぶつからない距離をあけ、その場に止まる。タルトも腹を押さえながら立ち上がり、ベアリスを睨みながら自分の場所へと帰って行った。  それから足のストレッチを中心に準備体操を5分ほどで終える。 「今日は最初だからな、体を慣らすために自由行動だ。危ないことと飛び込みは禁止だからな?」  体育教師はそういうと、プールサイドに置かれた長いすに腰を下ろした。  クラスメートたちはその間に、次々とプールサイドからプールへと下る金属製のはしごからプールへと入っていく。  みんなの肩が浸かるくらいの水深のプールは、競泳のために長さは50mあり、そのラインが横に6列並んでいる。  和気あいあいとした雰囲気の中、荒ぶるタルトから視線を外せば、なぜかベアリスがプールサイドの端に座り、プールには足だけを浸けて皆を見ているのが視界に入った。  僕はベアリスに近づき、声をかける。 「どうかした?」 「へ!?」  僕の声に、ベアリスはびくりと双肩を跳ねさせる。  僕、なにかした? 「ベアリスも入らないの?」 「え、あ……うん、ちょっとね」  と、気まずそうに言葉を濁すベアリス。  そこで僕はふと思ったことを口にしてみる。 「まさか、泳げないとか……?」 「あ、あはははは…………」  ベアリスは頬を掻き、乾いた笑いをこぼす。図星のようだ。 (ふっふっふ……ここは28年生きている僕の出番かな)  つまらなさそうに、遊んでいるクラスメートを見ているベアリスは、きっと一緒に遊びたいはずだ。そして僕は体を動かすことに関しては反則並みの身体能力と技術を有している。そう、それはつまり――、 「ベアリス! 僕を水泳大先生と呼ぶがいい!」  プロフェッショナル、なのさ!
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