影に立つもの

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 一応、屋敷の様子は自分の目で確認するが、今はこの奴隷商のから情報をもらおう。 「僕がここに住んでいるのって、案外有名なのかしら?」 「あ、ああ。おれ達の間じゃあ早い者勝ちとさえ言われてる」  ということは、今回屋敷には手を出されていないものの、もしかしたら襲撃があってもおかしくはないということだ。この事に関しては何か対策を練らなければならない。  まあいい、次だ。 「ここら一帯をテリトリーとした奴隷商はどれだけいるの?」  この問いに、禿げた男は考える素振りを見せてから答える。 「……2つだ」  ふぅ~む。いささか簡単に暴露しすぎではないか?  ここは1つアレを使ってみようか。 「嘘はついてないわよね?」 「ああ、ついていない」 「じゃあこれに誓ってくださいます?」  僕はそう言って、近くに放り出されていた学生鞄を拾い、そして中から1つの魔法具をとりだした。  それを禿げた男に見せる。  厚紙装丁された手帳サイズの本の姿をしたこの魔法具。名を『八百万(やおよろず)の契約書』という。効果は、これに触れた者が言った約束事を強制的に履行させる、と至ってシンプルな代物だ。ただし、その効果はすさまじい。  僕はこれを使って嘘を洗い出そうと思っているのだ。  『八百万の契約書』を、男に側頭部に触れさせてから僕は訊く。 「約束して? 嘘はつきませんって」 「あ、ああ。約束する」 「ダメ、自分でつきませんって言ってください」  男はいぶかしげにしながらも、僕の言うとおりに口を開く。 「……おれは、一切の嘘をあなたにつきません」  そう男が言いきった瞬間、『八百万の契約書』が輝きだした。強い光は一瞬で消え、何事もなかったかのように静まりかえる。  成功した。僕は早速『八百万の契約書』の表紙をめくって中身を確認する。
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