影に立つもの

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 まず僕は、その男の割れた腹筋があらわになっている腹部へと拳をめり込ませる。 「ぐっ!?」  男は吹き飛ぶことなく、玄関に倒れ伏す。  さっきの男の大声で集まってくる奴隷商の男たち。気配で察知するに、足元のコイツを含めて総勢10名。  まず、玄関の正面にある踊り場で折り返す階段から下りてくる男の前に飛び上がり、顎を掌底で打ち抜く。続いて踊り場に居合わせたもう1人の男の鳩尾(みぞおち)に、指を揃えて開いた手のひらを突き刺す。 「いたぞ!」  階下から別の男の声がする。  僕は踊り場の2人の気絶者の襟首を持ち、その男へと投げつける。  男はそれを受け止めようとするが、勢いが強すぎるために下敷きとなって倒れこみ、背後の玄関の壁に頭を打ち付けて気絶する。  これで4人が片付いた。  僕は2階にからこっちへと向かってくる気配に向き直り、階上に杖を向けて呪文を紡ぐ。 「来たれ雷(いかずち)の精、幾重にも集いて敵を捕らえよ、魔法の連弾・麻痺(まひ)する雷矢(らいや)」  そして杖から発せられた2本の『麻痺する雷矢』は、ちょうど姿を現した奴隷商の2人を難なく捕縛して床に縫い付ける。  次にその場に駆け付けた残りの4人へと向けて、僕は最後の魔法を口早に詠唱して発動させる。 「洞窟(どうくつ)で眠りしヒュプノスよ、安らぎなき者へ一時の安息を約束したまえ、眠りの霧」  踊り場より下の1階の玄関から厨房、食堂へと続く廊下に一気に『眠りの霧』が充満する。その少しののち、廊下の大理石にぶつかる鈍い音が4回聞こえた。  これで全員の意識を刈り取ったことになる。 (となると、奴隷商の組織の半数を捕らえたことになるよね。じゃあ残りの15人は……?)  そう思うが、この屋敷周辺には人の気配はない。当然この屋敷の中にも人はいない。  僕は踊り場から階下に下り、玄関に向かって右の廊下を進む。
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