影に立つもの

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 そのまま進み厨房の前のドアに立つ。その向こうでは2人が身を潜めて杖を構えているはずなので、僕はそのドアをノックして言う。 「侵入した賊は倒しました。通報をお願いできますか?」 「……」  沈黙。侵入した賊と僕とをドア越しに見分けることは出来ないだろう。ゆえに僕はドアノブをひねり、少しだけドアを開けてから言う。 「僕は賊を縛りあげておきますので、なるべく早めにお願いしますね」  ドアから離れ、足元に転がる2人の男のみすぼらしい服の襟もとを掴み、引きずりながら玄関へと運ぶ。同様にして向こう側で眠っている2人も集め、2階で拘束されている男たちも気絶させて階下に運ぶ。  奴隷商の男10人を1か所に集め、そこに簡単な結界を張って逃亡が出来ないように閉じ込める。  ちょうどその結界を張り終えたとき、厨房の方から人の気配を感じて振り向く。  アヤとハナが警戒色に染まった表情で、杖を持ったまま声をかけてきた。 「どちらさまで?」  冷たく鋭い声。アヤの視線は鋭く、まったく敵意を隠していない。僕はあの優しいアヤがこんな冷淡な声を出すのかと、心底驚く。 「魔法ギルド『ミカエルの剣(つるぎ)』のエドワードと言います。安心してください」  僕はローブ下の学生服が見えないように気をつけながら、ローブの内ポケットからギルドカードを取り出してアヤにつきだす。 「どうぞ」 「……」  アヤは無言で受け取り、僕のギルドカードをしげしげと見始める。しばらく見たのち、背後で僕を警戒しているハナにそのギルドカードを手渡す。  2人は僕のギルドカードをよく確認して、それから僕に返却する。 「信用いただけましたか?」 「……いえ、ただのFランクの魔法使いがこれ程とは思えません」  アヤが言う。たしかにそうだ。  ただのFランクの魔法使いならば、相手がいくら未熟な魔法使いであろうとも強さ的には大差ない。
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