影に立つもの

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 でも、僕がギルド員として彼女たちの信用を得る必要はない。  よって僕は、アヤとハナに言う。 「じゃあ信用しなくてもいいですよ。僕もやることは終わったし、ここらで立ち去るとします」  それから扉に手をかける。 「待ちなさい!」  アヤがそう言ったが、僕は気にすることなく玄関扉を開いて足早に屋敷を出た。 「転移」  2人が追ってくるかもしれないので早めに転移魔法を使う。足元に発生した転移魔法陣の光に包まれて、僕は屋敷前から消え去った。  僕は人気(ひとけ)のない町はずれの西の草原の、これまたいつも歩いている道が糸のように見えるほどに離れた場所に転移した。そうしなければ、もしあの騒ぎの野次馬なんかに見られたら大事(おおごと)になる。僕の年齢で転移魔法なんて習得することは、稀代の天才でも困難だからだ。  身につけているローブを脱ぎ、キレイに折りたたんで学生鞄の中にしまう。 (召喚魔法って、便利だけど変に不便だよな~)  そんなことを思いながら、垂れ下がった後ろ髪に目をやる。  黒に限りなく近い灰色の長髪。 「また!?」  思わず髪の毛を手に取って凝視する。  前にも一度だけこの現象を目の当たりにしたが、あいにく見当がつかなかった。  だが、今回については情報がある。  前に黒髪になった翌日に、僕はベアリスに僕の髪の毛の色を尋ねたことがある。その時の回答は「うん? 銀……灰色かな」だった。つまりは黒髪になったことは以前にはない。  ということは、今回の黒くなった現象は2度目。そして前回との共通点は『ギルド員として行動した後』ということだ。  この点に着目して考えていく必要がある。 (よし……今週末にでもギルドに顔を出してみようかな)  僕はそう決め、髪の毛の色が元に戻るまで未だ明るい夕刻の空を見上げていた。
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