第一章 3 心

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「たらした覚えがないんだがな」 「覚えがないなら教えておくよ。君は女の子に物凄く好かれる人間なんだ。だから、身の振り方には気をつけるんだよ?」 「あ、ああ」  どうやら納得してもらえたようだ。と、ブラドが何かに気づく。 「時間は大丈夫なのか?」  時間? なんの時間? ……ああ、今、夜だったね。感覚からして、九時前か。大丈夫だ。 「どうせ九時前とかでしょ。へーき、へーき。ブラドは?」 「寝る時間には早いし、全く問題ないが……アイリスさんは」  僕は、僕の名前に『さん』付けしたブラドの言葉を遮り、 「アイリスって呼んでって前に言った」  そう指摘する。  一瞬ブラドは言葉を詰まらせ、言いにくそうに話を再開する。 「アイリスは、帰らなくてもいいのか?」 「その言葉の裏を返せば、帰っちゃうの? 嫌だよ、アイリス! もっと傍に居て! ……で合っているね?」 「断じて違う」 「いっそのこと同じベッドで寝よう! そうしよう! ってこと?」 「頭を冷やせ」 「シャワーを一緒に浴びたいの?」 「帰れ」  可愛い可愛い僕のブラドから帰宅命令がでました。やだ、寂しい。親離れされたお父さんの気分だよ。  とりあえず、帰らなければアヤとハナが、「交際していない男性と同衾(どうきん)なんて、レディとしてはしたなさ過ぎですよ!」などと言ってきそうなので、そろそろ帰って安心させるべきか。  僕はベッドからひょいと立ち上がる。 「それじゃあ、僕は帰るよ。またね!」 「あ、うん。おやすみ」  意外そうな顔をするブラドを寝室に残し、僕は彼の寮室を出る。六号室とプレートの打ちつけられた扉を開け、自分の寮室へと帰った。  玄関口で待っていたのは、どこか、ほっとしているハナだった。 「お帰りなさいませ、アイリスお嬢様」 「うん。ただいま、ハナ」  上履きのまま飛び出していたので、僕は靴を履き替えることなく上がる。ハナを背後に従え、ダイニングに入ると、アヤがにっこりと笑って出迎えてくれる。 「お帰りなさいませ、お嬢様」 「ただいま、アヤ」
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