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ぼうっと窓を眺めていると、いつの間にかプリントが配られていた。
湧井眞人の手元には配られていなかった。席の場所が、教室で窓際の一番奧にあるせいか、みんなから忘れられやすかったのだ。
眞人は、席を立ち、先生の元へ歩いていく。先生は配られたプリントについての説明を始めようとしているところだった。教壇に立って、余ったプリントを両手で持ち、とんとんと教卓に叩いて、乱雑になったプリントの端を整えている。その横で眞人は一声を上げた。
「先生、プリントが、一枚、足りません」
あまり眞人は喋るのが得意な方ではなかったから、少し片言になってしまった。だから、通じにくいのかな? こちらを向いてくれない先生を見て、眞人はそう思う。クラスの座席からは、眞人に気付いた者もいるらしく、少しざわつき始めていた。
「先生、プリントが一枚、足りません!」
先ほどよりも大きな声でそう言うと、不意を付かれたかのように先生は、一瞬驚いたような顔でこちらを見ると、曖昧に笑って言った。
「ああ、すまない。いたんだね。私としたことが申し訳ない」
そう言って、先生は教卓の上にまとめていたプリントの束から一枚を取って、眞人に渡してくれた。
「ありがとうございます」
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