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翌日、妙な噂がクラスの間で流れていた。
教室に入り、いつものように窓際の一番後ろの席に着くと、眞人は何事かと思いつつ窓を眺めながら、その噂話に聞き耳を立てていた。
その噂話をしている声は二つで、どちらも男子生徒だった。
「ねぇ、聞いた?」
「ああ、聞いた。あの竜胆朱里って人だろ? 二年の」
竜胆朱里――その名前だけは聞いたことがあった。たまにクラスの会話の中で、その名前が出るからだった。それは良い意味と悪い意味での両方でだ。ある者は憧れであったり、ある者は軽蔑であったり、その評判はまちまちで、確かなことは相当な変人であるということだった。しかも質の悪いことは、どうにも彼女は美人らしいとのこと。そのせいで、クラスの男子の中には彼女に憧れを抱いている者もいるらしい。でも実際、眞人は会ったこともないし、彼女がどうしてそんなに有名なのか、何をしているのかも分からなかった。彼女に関する具体的な話を聞くのはこれが初めてのことだった。
でも、胸騒ぎがするのは何故?
「また、やらかしたらしいね」
「今度は、屋上から飛び降りたんだ」
「よく無事だったよね。奇跡的に怪我一つ無かったらしいよ」
「その上、追いかける風紀委員から逃げ延びたって話だ」
「そうそう、おまけに変な演説までするし」
「ああ、宇宙人がどうとかってやつだな。しかも拡声器まで使って! 変な話を長々と続けたと思ったら、今度はいきなりフェンスをよじ登って、そのままジャンプだぜ? マジ受けるよなー」
「そうかな。俺は、迷惑な話だと思うけど、だって、そのせいで今後、屋上の使用が禁止になるんだよ?」
「もう屋上で弁当が食べられないな」
「もう少し、後先を考えて行動して欲しいね」
屋上で青春のひとときを過ごしている者達にとっては、重大な問題なのだろう。最も眞人としてはどうでもいい問題なのだが。
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