第一章

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 翌日、妙な噂がクラスの間で流れていた。  教室に入り、いつものように窓際の一番後ろの席に着くと、眞人は何事かと思いつつ窓を眺めながら、その噂話に聞き耳を立てていた。  その噂話をしている声は二つで、どちらも男子生徒だった。 「ねぇ、聞いた?」 「ああ、聞いた。あの竜胆朱里って人だろ? 二年の」  竜胆朱里――その名前だけは聞いたことがあった。たまにクラスの会話の中で、その名前が出るからだった。それは良い意味と悪い意味での両方でだ。ある者は憧れであったり、ある者は軽蔑であったり、その評判はまちまちで、確かなことは相当な変人であるということだった。しかも質の悪いことは、どうにも彼女は美人らしいとのこと。そのせいで、クラスの男子の中には彼女に憧れを抱いている者もいるらしい。でも実際、眞人は会ったこともないし、彼女がどうしてそんなに有名なのか、何をしているのかも分からなかった。彼女に関する具体的な話を聞くのはこれが初めてのことだった。  でも、胸騒ぎがするのは何故? 「また、やらかしたらしいね」 「今度は、屋上から飛び降りたんだ」 「よく無事だったよね。奇跡的に怪我一つ無かったらしいよ」 「その上、追いかける風紀委員から逃げ延びたって話だ」 「そうそう、おまけに変な演説までするし」 「ああ、宇宙人がどうとかってやつだな。しかも拡声器まで使って! 変な話を長々と続けたと思ったら、今度はいきなりフェンスをよじ登って、そのままジャンプだぜ? マジ受けるよなー」 「そうかな。俺は、迷惑な話だと思うけど、だって、そのせいで今後、屋上の使用が禁止になるんだよ?」 「もう屋上で弁当が食べられないな」 「もう少し、後先を考えて行動して欲しいね」  屋上で青春のひとときを過ごしている者達にとっては、重大な問題なのだろう。最も眞人としてはどうでもいい問題なのだが。
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