女子高生 徳川家康

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冬の未だ寒い季節の話である。 康子は軽小坂を足早に駆け下りると、ついと後ろを振り返った。後ろには見慣れた制服姿の男子生徒が三人、特に康子を気に留めた様子ではない。その姿に康子は胸を撫で下ろすと、愛用の鞄から携帯を取り出し、そのメタリックなフォルムにしなやかな指を這わした。 コールする事暫し、受け手が名乗るよりも早く康子は切り出した。 「半蔵か」 その声は、康子の可憐な容貌からは程遠く、ずしりと重い。 「ワシじゃ、家康じゃ。お主今どこにいる」 『殿』 携帯の向こうからは、半蔵、いや、服部正一の不服げな声がした。 『それはこちらの科白ですぞ。殿こそ今どちらで御座いますか』 「軽小坂を下りたスタバの側じゃ」 『供は』 「いや、それが一人での。井伊の奴が戻らんのじゃ。奴らにはまだ見つかってはいないようじゃが、それも時間の問題じゃ。お主は今どこにいる」 『市ヶ谷で、塾ですよ。電話がかかって来たから、今は廊下に出てますが、講義中だったんです』 「なに!?お主、高校一年なのに塾に通ってるのかっ!?たいした奴じゃのう!講義中悪かった。続けてくれ」 『何をおっしゃいますかっ!塾の講義など補講を受ければいいのですっ!それより殿の身の方が、我等徳川にとっては何よりも大事!すぐにお向かいに上がりますゆえ、その場から動きなされますなっ!』 「・・・半蔵」 ごくりと康子は、唾を飲んだ。 「もう遅そうじゃ」 黒いワゴンが、康子の行く手をふさぐように派手な音を立てて止まった。出てくる男は三人。そのうち卑しい面構えの小男が康子に媚びるように笑うと、こう言った。 「徳川康子様で御座いますね?」
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