プロローグ。

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「羽衣、早くしないと遅刻するぞ!」 「ち、ちょっと待って!」 慌ただしい朝。 少し寒さが残る4月、羽衣たちは二年生になった。 玄関で待つ健太郎の元に、大きい学ランを着た羽衣が駆けてくる。 「ったく、遅刻とかマジでシャレになんねぇからな? それから、今日は入学式なんだから、言葉遣い・・・。」 「分かってるよ! あたし、じゃなくて、俺にすればいいんでしょ?」 桜並木が目にまぶしい。 学校に続く道を歩きながら、ふと健太郎が言った。 「あと1ヶ月だな。」 「うん!」 毎日しているメールや電話は、羽衣の寂しさを吹き飛ばしている。 あちらもあちらで色々大変らしいが、よくやっているようだ。 そんな羽衣には、最近困ったことがあった。 「げ。」 足を止めた健太郎に、ギクリと羽衣の肩が跳ねる。 前方にいたのは、その困ったことの元凶。 「おはよう。」 「お、はようございます、雅樹先輩・・・。」 毎日のようにかまってくる雅樹だった。 「何か用ですか、雅樹先輩。」 男同士の約束を交わしている健太郎が、すぐに羽衣を後方に隠す。 ・・・唯たちが沖縄に旅立ってから、5ヶ月。 雅樹の羽衣へのアプローチは、頻繁に行われていた。 「用があるのは、羽衣君の方。 君じゃない。」 絶対に羽衣を一人にはしない。 隙あらば近づいてくる雅樹と二人きりにさせることは絶対になかった。 「羽衣は用がないそうですから。 先輩、遅刻しますよ。」 「別に。 遅刻とか気にしないから。」 毎朝毎朝、繰り返されるやりとり。 いつもなら一歩も引かずに話が平行線になり、チャイムの音で羽衣たちが先に逃げるのだが、今回は違った。 「・・・今日は入学式だから、許してあげる。」 フラリと背を向けたのは雅樹の方だった。 拍子抜けする羽衣と健太郎だったが、今がチャンスとばかりに昇降口に駆け込む。 「少しは、話ぐらい聞いてくれてもいいのに。」 必死な二人は、そんな雅樹の呟きには気がつかなかった。 「クソッ、あいつ毎回しつこいんだよ! いい加減、諦めてくんねぇかな・・・。」 逃げることに手を抜かない二人は、そのまま教室までダッシュを決める。 中に入ってようやくほっとした二人は、窓際の羽衣の席まで移動した。 体育館を望めるその席からは、入学してくる真新しい学ラン姿の新入生がたくさん見える。 羽衣はケータイを開くと、唯にメールを打った。
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