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そして、また放課後。もうこの時間の為に学校に出向いていると言っても過言ではない。自分やマサの上に『白いもの』が落ちてくるという可能性は否定できないからだ。家に籠っていれば自分の身に危険が及ぶし、マサを危険に晒すことにもなる。俺が居なければマサは部活に行くだろう。もしその時に学校が倒壊したら、……考えたくもない。
今日のマスコミは外国で起きたビル倒壊事件よりも、自国で起きた飛行機墜落事故を大きく取り上げている。勿論俺の身の回りの人達も例外ではなく、ちょうどその機体を目撃した、海に落ちて爆発するのを見た、と無意味な情報交換に勤しんでいる。
世間は大騒ぎしているものの、マサはそのことを決して口にしない。どうやら昨日の事を一刻も早く忘れたいみたいだ。
5時まであと、3分。
「明日から冬休みだね」
「うん」
「ねえ。クリスマスさ、」
いつもよりも落ち着いた服装のマサが、ニット帽から垂れる紐を弄りながら言う。そういえばクリスマス、あと4日後だ。「うん」俺が応えたその直後、マサの手がそっと俺の手に触れた。
「何処か行こうよ。ふたりで」
「…………っ」
よし今だ時間止まれ。時間が止まる気配がないので息を止める。いや、勝手に呼吸が止まる。手袋越しにマサの体温が伝わってくるような伝わってこないような。うああああ心臓の音が煩い。思考が、俺の情報処理能力が空に吸い込まれて、意味を為しているのかいないのかすらよく判らない。何が言いたいのかっていうと落ち着け俺。
「……駄目?」
「い、いいいいいいけど。いいよ。暇だし予定とか無いし。うん」
出掛ける、ってつまりデートか。そうなのか。その時に告白か。
「じゃあ、クリスマスイブに電話する」
「おう」
また電器店の横を通った時、濃灰色の空から何かがふわりと降ってきた。「冷た!」鼻先に落ちるその温度に思わず声をあげてしまう。はたと思い立ち、ショーウインドウ越しにテレビを見る。ニュースキャスターが5時ちょうどを知らせていた。
「……雪」
マサは空を見あげ、落ちてくるそれを手で受ける。それは雪だった。真っ白な雪がふわふわと街に降り注ぐ。
「わあ、これ初雪だよ柴。綺麗」
飛行機事故について取り上げるテレビ画面を背景に、マサが幸せそうに微笑む。寒さで頬が赤くなっている。真っ白な粉雪に映える柔らかそうな黒髪、はにかむ笑顔がとても綺麗に見えた。
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