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 それきりとくに何もないまま家に到着した。キッチンに立つ母親と全く頭に残らない会話をしてから自分の部屋に入る。蛍光灯の紐を引いて部屋を明るくし、制服を着たままでベッドに倒れ込んだ。 「月曜日しゅーりょー……う」  顔を布団に潜り込ませ、太陽の匂いを鼻いっぱいに吸い込みながらひとりごちる。そういえば、この匂いは虫の死骸の匂いだと誰かに聞いたことがあったり無かったり。まあ今更そんなことを言ってたら布団で寝られないじゃないですか、ねえ。 「…………はあ」  虫は良いよな。いつの間にか生まれて、多分喧嘩とか入試とか、進路の事とかレポートのこととか考えないうちにいつの間にか死んでしまえるんだから。得だよなそれ。 「…………」  ごろんと仰向けになり、ポケットの中から丸い小石を出す。艶やかな石の表面を指で弄るうち、もしかしたらこれは魔法の石なのではないか、とか下らないことが頭を過った。魔法のランプと同じ類いのあれだったりして。  ……まさか、な。天井にぶらさがる蛍光灯に視線をそらし、少しもしないうちにまた石に視線を戻す。枕元に置かれた目覚まし時計の秒針の音が心臓の音に聞こえる。ちょっとドラマのワンシーンっぽいからいけるんじゃないかこれ。俺は勢いよく起き上がり、「俺を虫にしてください!」先ほどふと浮かんできた望みをそのまま口に出した。 「………………」 「…………」 「…………ぶはー」  恥ずかし。石を凝視しながら少しだけ待ってみたが、身体には何の変化も起こらなかった。勿論石が光ったりすることもない。漫画読みすぎだな俺。  どうやら人間という器からはどうやっても抜け出せないらしい。少しの望みをかけて「あー、じゃあ俺を天才にしてください」呟きつつ学習机に向かう。現実は厳しいものだ、今日から返却される期末テストの回答用紙の山、果ては1月末に控えたセンター試験まで神回避できるような気がしたんだけど。  
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