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 それから暗記項目を頭に詰め込んで、晩飯食べて風呂入って、再び暗記項目を叩き込んで、かなり頭がよくなったような錯覚を覚えながらささやかな眠りについた。  そしてまた今日、火曜日。まだ期待を引き摺りながら目を開けてみたけれど、身体は人間のままだし天才にもなっていない。まあ至極当たり前のことだ。  制服に着替えてからいつもと同じ朝食を胃に収めて、ぼうっとした思考のままぶらぶらと学校へ向かう。学校までの道はそんなに遠くないため、脳味噌が完全に目覚める前に着いてしまった。  同じ服を着た生徒たちは皆濁った目をしていて、どれくらい学生ズボンを腰まで下げられるか、或いはどれくらいスカートを短く出来るかを今日も元気に競いあっている。周りに透明な膜を張って身を守っているみたいにも見える。多分俺の中二病フィルターの所為だ。 「はよ」 「ん、あ」突然横から声をかけられ、我ながら間抜けな声が口から飛び出す。いつの間にか小柄な女子生徒が隣を歩いていた。内巻きのボブヘアーに赤いカチューシャを付け、色とりどりのボタンが沢山縫い付けられたカーディガンを羽織った活発そうな女子。肩にかけたギターケースがやたら大きく見える。  彼女は真に咲く、でマサキという名前のクラスメイトだ。同じクラスに雅樹という男子生徒がいるため、生徒や先生からはサキと呼ばれている。俺は昔からのあだ名である『マサ』で通してるけど。  家が近所という訳でもないけれど、マサとは幼稚園の時から偶然同じ進路を辿ってきた。所謂、幼なじみというやつ。実は幼稚園の頃からずっと好、いや、……憧れてる。本人には言えないです絶対。 「お、はようマサ」 「あはは。眠そうだねえ、シバ」 「……んー、眠い」  シバ、というのは何を隠そう俺の名字だ。犬っぽい名字だというのは重々承知している。姓に比べて名前が平々凡々である所為か、あまり名前で呼ばれることがない。名字が嫌いという訳ではないから気にならないけど。  ……今日もまた教室に行って授業を受けて、また友達と話して先生に怒られたり褒められたりして、また家に帰って勉強して眠るのだろう。今日という日が容易く想像出来てしまう。大きく息を吸い込むと、朝の冷たい空気が肺の中に潜り込んできた。  
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