5/16
前へ
/16ページ
次へ
 予想通り、特に何もないまま放課後になった。小学校の時に絵日記を1ページずつ書いてくる宿題があった記憶があるけれど、今その日記を毎日付けろと言われても書けないと思う。授業の内容は違えど『いつもと同じ1日でした』としか書きようがない。  あ、でも学食のメロンパンは何故かいつもと違って生クリームが挟まっていた。学食のおばちゃんに何か良いことでもあったのだろうか。  ……他人の不幸は蜜の味、だったら他人の幸せは何の味だろう。なんてどうでもいいことを考えつつ、現在。  余り物には福がある精神で入った美化委員会は、実は学校内の委員会でも5本の指に入るブラック集団だった。綺麗な響きとは正反対に(先生が)汚い。今日の朝会の時に担任を通して派遣業を通告され、俺を含めて10人前後が無報酬の花壇整備に精を出している。  初めは嫌々土を掘り返していた生徒たちだったが、しばらく経つと遠い目をして「土っていいよな」とか言い始めた。これも美化委員(株)の策略なのか。 「面倒くさいねー」  青と紺色で構成されたジャージの腕を捲り、軍手の泥をはたき落としながらマサが言う。マサも俺と同様、余った役職に突っ込まれただけの可哀想な奴だ。 「なー」適当に相槌を打ち、枯れかけている花に手を伸ばす。お花大好き先生が鼻息を荒げて言うには、冬に向けて間引きをしなければみんな枯れてしまうとのことだ。遅かれ早かれこの花は全て枯れてしまうのに。  もう全滅してしまった箇所は掘り起こされて肥料を混ぜられ、新しい土壌として生まれ変わっていた。生き延びている花は間引きされ、その生を繋ぎ止めさせられている。 「寒いのに可哀想。全部抜いちゃえばいいのに」  華奢な指で花をつつきながら、マサがぼそりと呟いた。憂いを帯びた横顔が夕日に照らされ、その長い睫毛につい赤面しそうになってしまう。再び土に視線を戻し、俺は枯れた花をそっと引き抜いた。  
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加