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「皆さんお疲れさまでしたー」 「でしたー」  少し後。先生の労いの言葉だけを有り難く頂戴して、やっと美化活動から解放された。携帯を開いて時計を見ると、いつの間にかもう5時近くになっていた。集合時間から考えると1時間と15分もやったことになる。……まあ、放課後は図書館やら教室やらでだらだらしていることが多いから大して変わらないか。 「帰ろ」  上はジャージ、下はスカートというちぐはぐな服装をしたマサが当たり前に言う。ギターケースを背負うともっとちぐはぐに見えるけれど、不自然ではないのが凄い。 「軽音部行かんでいいの?」 「いいの。もう遅いし」 「……ふうん」  気の抜けた応答をしてみたものの内心は緊張しっぱなしだ。マサは高校に入学してからすぐにギターを始めてしまったので、こうして一緒に帰るなんて久し振りだった。 「もう少しで冬休みだね」 「あー、そだな」 「クリスマス予定ある?」 「……無いけ、ど」 「へー。じゃあさ、」 「ん。 ……お?」  ばさ、と音をたてて何かが木の上から落ち、思わず声をあげてしまった。「?」マサもそれにつられて木を、そして地面を見る。 「……あ、大変っ」  一早くマサがその正体に気付き、慌ててその塊に駆け寄った。引っ張られるようにして俺もマサの横にしゃがみ込む。 「…………文鳥?」  覗き込んでみると、地面に落ちたそれは手乗り文鳥だった。脚と嘴、赤目以外の部分から色という色が抜け落ちたかのように真っ白な小鳥。……この色は始めて見た。おそらくどこかで飼われていた鳥だろう。捨てられたのだろうか、或いは自ら逃げてきたのだろうか。 「怪我してる」  ぐったりとしている鳥をよく見てみると、確かに羽を怪我しているように見えた。目を固く瞑ったままぴくぴくと痙攣している。 「なあ、帰ろーぜ」 「うん」  俺の言葉にこくりと頷き、マサは真っ白なその鳥を両手で掬い上げた。え、コイツ虫は絶対触んないのに死にかけの鳥は触れんのか。 「持って帰んの?」 「うん」  珍しく力強い調子で頷いたので、もう何も言及できなかった。マサの指が鳥の身体を優しく撫でる。ふ、とその目が空を仰ぎ、唇からぽろりと言葉が零れた。 「あの先生が、なんで花を生かそうとするのか分かったかも」 「…………ふーん」  わかんね。  
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