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 そしてまた次の日。結局昨日はマサを家まで送れなかった(マサの家の方がだいぶ遠い)のが物凄く心残りである。それに加え、クリスマスの話題の続きも聞くことができなかったことも残念でならない。  恋人でもない男子生徒に家まで付いてこられるのはやっぱり苦痛なんだろうか。もうそろそろ爆発しろ俺の自重。ここは賭けだ告白だ、そしてひとりカラオケでどんまいパーティーだ。  ……まあそんなことはどうでもいい。どうでもいいのだ、べつにへこんでないし。  登校中にマサに会うこともなく、休み時間にふたりで話すことも勿論無く、あっという間に放課後になった。同じ生活の繰り返しだ。毎日毎日白いキャンバスに同じ構図の絵を描き続けているような感覚に陥る。変化を付けようとしたところで、描き上がるのは微妙に色彩が違うだけの同じ絵でしかない。 「うー……ん」  放課後に友達と喋るのも図書室で居眠りするのも好きだけれど、帰り道も結構好きだったりする。木が申し訳程度に建ち並んでいる都会の空気は汚いし、道を歩く人々の声も煩い。それでも一番好きなのは独りでもなく誰かと一緒でもない、この僅か15分程度の時間だ。 「あ、また降ってくるよ!」  喧騒の中、その言葉が何故だか不自然に大きく聞こえた。幼稚園児くらいの男の子が母親らしき女の人と手を繋ぎ、もう片方の手で空を指差している。その指が示す方向、つまり俺の真上を仰ぎ見た次の瞬間、マンションのベランダから――何か白い、白いけれど暗い影のようなものが真っ逆さまに落ちてくるのが見えた。 「……あ、あ」  避けられない。白い、白……、あの白い石や鳥は今どこにあるんだろう。頭の中が真っ白になる。全てが真っ白だ。思わず目を固く瞑った直後、女のひとの悲鳴と分厚いガラスが粉々に割れるような音とが頭の中で反響した。 「…………?」  そっと目を開けてみる。ええと……良かった、まだ生きてるみたいだ。  足元に散らばったそれは紛れもなく、白い植木鉢の破片だった。小さな模様が描かれた植木鉢が跡形もなく砕け散っている。あと数十センチずれていたら頭に直撃していただろう。通り過ぎていく人間は皆無関心で、此方を一瞥する人すら居ない。
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