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「だ、大丈夫ですか!?」  唯一、駆け寄って声をかけてきたのは先程見かけた女のひとだった。先程空を指差した男の子がしっかりとその右手を握っている。俺はへらりと笑顔を繕い、「大丈夫です」半分本当、半分嘘の言葉を言う。大丈夫、ではない。まだ心臓が破裂しそうなくらいどきどきしている。 「すみません、この子ちょっとおかしな子なんです。この子が空を指差すと、本当に何かが落っこちてきて……。ほら健太、謝りなさい」 「いえいえ。その子の所為ではありませんよー」  おかしな子、よりも不気味な子と言いたいのだろう雰囲気が伝わってくる。子供の手前それを言わないのだろうけれど、おかしな子でも同じようなものだと思う。子供を見ると、不貞腐れたように頬を膨らませて俯いていた。 「本当だもん。毎日白いものが降ってくるんだもん」  子供は頬を真っ赤にさせ、ぐずぐずと涙声で呟いた。……白いもの、か。確かに一昨日から、この時間になると白いものが落ちてくることが多い。取り敢えずかがんでその子と目線を合わせ、泣き出されないようににこりと微笑んでみせる。 「毎日?」 「うん。きっと明日も降るよ」  子供はたどたどしい口調で言い、母親の手をぎゅっと握った。その顔は真剣そのもので、冗談を言っているようでもない。 「そか。じゃ、お互い頭のうえに気をつけような」  その頭にぽんと手を置きつつ言うと、子供はこくりと小さく頷いた。
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