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そして、子供の言っていたことは本当になった。……いや、元々あの子は気付いていた、そして他の人間は気付かなかった。それだけのことだ。
「…………」
日は更に短くなり、空は少しずつ黒に近づいていく。新調した腕時計を見ると、時計の針は4時54分を指していた。この件より前までは腕時計なんて不要だと思っていたけれど、やはり直ぐに時間を確認するには腕時計が一番だと実感する。
「だいぶ寒くなったね」
隣を歩くマサが、ギターケースをがたがたと鳴らしながら言う。少し前「これから暫くの間一緒に帰んね?」と何気なく(マサ曰く『だいぶ挙動不審だったけどね』)言ったら、マサはあっさりと承諾してくれた。以来、軽音部を早めに切り上げて一緒に下校してくれる。してくださる。ちょっと進歩だ。
「うん」
俺は時計から目を離し、大きく息を吐く。息は水蒸気になって冷たい空気に霧散し、吐き出した言葉と同じく残滓すら残さない。マサも手袋で口を覆い、はあ、と一度息を吐いた。
「あと1回学校来れば、冬休みだね」
「なー」
「早いね」
「うん」
時計ばかり気になって、気の利いた受け答えが出来ない。あと5分弱で今日も『白いもの』が降ってくるかもしれないのだ。それから自分の身を、そしてマサを守らなければいけない。
小石が頭の上に落ちてきてからちょうど2週間。少年の言うとおり、『白いもの』は事実上毎日降ってきた。羽毛布団、郵便物、猫や犬。多種多様な『白いもの』が降ってくるのは決まって夕方の5時だ。
初めの1週間はなんでもないようなものだったけれど、最近はそうも言っていられない。その規模が日に日に大きくなっていることに気付くまで、そんなに時間は掛からなかった。
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