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「んーっ…………………ほいっと。」
まぬけなかけ声と共に、サヤは弓矢を放った。
「あ………」
矢は狙いを大きく外れて森の方へと消えていく。
「難しいな…」
あたりは暗闇に包まれ、遠くで獣の鳴き声が聞こえ始めた。
弓の練習を始めてからかなりの時間がたっていたようだ。
「今日はもう帰ろう…」
小さな肩を落として、とぼとぼと家路につく。
サヤはもう18歳になるというのに、どこのパーティからも誘われた事がない。
僧侶という職業には自信がある。
回復呪文も得意であり、自分たちとは違う神様を崇めている国もあると知ってからは薬学も身に付けた。
問題は、サヤの内気な性格であった。
メイスや杖で敵を攻撃する事ができない。
手に伝わってくる感触がなんとも気持ち悪かった。
「投げナイフもダメだったし、弓もダメか…」
暗い夜道、うなだれながら長い亜麻色の三つ編みをほどく。
秋の涼しい風に、クセのついた髪がなびいた。
「武器が扱えなくても、もっと明るい性格だったらよかったのにな…」
今夜はきれいな満月だ。
涙がこぼれ落ちないように空を見上げた。
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