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ここは確かに町からは離れた場所であるが、こんな邪な気を帯びた強い魔物が出現するエリアでもないはずだ。 「苦しっ…」 濃すぎる闇の気配は黒い霧となってサヤを包み込む。 「っ………」 悪魔払いの言葉を発しようと口を開いたその時。 サヤは自分の体が宙に浮くのを感じた。 一瞬遅れてわき腹に劇痛が走る。 何者かに突き飛ばされたと気がついたところで受け身など取れるはずもなく、勢いよく地面に倒れ込んだ。 「う…」 あまりの衝撃に視界が霞む。 それでも意識だけは手放すまいと気を張るサヤの体が再び宙に浮いた。 ……もうダメだ。 目を強く瞑って衝撃に備えたサヤであったが、しかし今度は誰かの腕に抱えられているらしい。 濃い霧の中で、自分を担いでいる相手の、灰色の毛に覆われた長い尾のようなものが揺れていた。 かなり大きな魔獣のようだ。 「………あなた……だ…れ?」 声を絞り出すサヤに、あまりにも場違いな陽気な返事が返ってきた。 「俺が聞きたいよ。あんた何者?てゆーか俺に弓当てるなんてすげーなっ!久しぶりに人間界に降りてきたら、急に攻撃されたからさぁ。気合い入れてやり返したのに、なんかお前……弱ぇのなっ。」
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