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僕はよく空を見上げた。
誰も体験したこと無い何かを‥僕は知っているんじゃないか…
僕は空を見上げる度にそう思う。
町中で聞こえる懐かしい声や音、しかしその声や音は、ただ懐かしいだけで僕の記憶には存在しなかった。
通り過ぎる人々、時々僕は振り返って、感じた風にまた懐かしさを覚える。
でも、彼女は違った。
僕の横を通り過ぎ、僕はまた懐かしさを感じて振り返る。
すると彼女も振り返っていて、僕達は互いに歩み寄った。
「あの、どこかで会いましたっけ?」
懐かしい声だった。聞き覚えも、記憶にも無いが、その声は、何故か懐かしかった。
「分からない。でも僕も初めて会った気がしないよ‥」
「もしかして‥よく緑の看板のレンタルビデオ店に来ない?」
「あの緑の看板にチーターの模様がついた?」
「そう!やっぱり、あそこのお客でしょ?私もよく行くのよ!」
違う‥確かにあのレンタルビデオ店にはよく行く。
でも‥この懐かしさは、違う‥もっと彼女を知っているような、そんな気がするんだ。
「はは、なんでかなあ、それよりも‥そんなちっぽけなものよりも、もっと君を知っている気がするんだ‥」
「それってストーカー宣言?」
「いや、ま、まさか‥そんなんじゃ無いよ…」
「ははは、そんな訳無いよ、だってすれ違ったんだもん、ストーカーなら後ろから付いてくるでしょ?」
「今なんて‥?」
「分からない…あれ、なんか初めて言った言葉じゃ無いみたい…もうなんか訳分かんない」
僕も彼女と同じだった。きっと僕の心のつっかえを、彼女も感じているのだろう。
彼女の言葉は僕に取り憑いて離れなかった。懐かしく、忘れたはずのことがだんだん蘇ってくるみたいに、僕は不思議だった。
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