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僕達は頭に衝撃が走った。
映画を一時停止して、2人は互いに見合った。
「そんな‥今のって、嘘よ‥私達‥」
「思い出した…全部、全部!僕は人殺しだ。」
僕は台所に行き、シンクの中の包丁を見つけた。
それは僕が記憶を消す前、念入りに血を洗い流した後の包丁だった。
「嘘だろ!!美奈、今日は何日!?」
叫びにも近い声を僕は上げた。
しばらくすると、美奈が震えた声で言った。
「6月12日…」
「そんな‥1日しか経って無いじゃないか…」
しばらく静寂が続き、僕達は各自考え込んでいた。
僕は家に帰って、ベッドの上で薬を注射したのだ。
今日の朝の目覚めは、驚くほど清々しく、すっきりしていた。まるで肩から重い荷を下ろしたかのようだった。
そして彼女とすれ違って…
「ふふ、一体僕達は何のために…記憶は1日で戻ったじゃないか!!一体何のために研究を重ねて来たんだ!!何のために…」
「いいのよ‥もう…私達は正しいことをした。もういいじゃない…私は爆弾魔、あなたは殺人鬼、お似合いよ」
「本当に?僕達は正しいか?」
「世界の秩序を守ったのよ‥私達は。あんなものはもう、二度と生まれないわ」
「そうかな?」
僕は今日…初めて笑った。
「そうよ」
それを見て彼女も笑った。その笑顔は懐かしく、それでいて新鮮なものだった。
「それより早く映画の続き観ましょ?」
「そうだね?観よっか」
あの事件はこれからも僕達の記憶に残るだろう。
しかしその記憶もまた…僕達の立派な財産だ。
5年後。
僕達はショッピング帰り、空を見上げた。
すると、街中にある数々のテレビの画面が一斉に変わり、臨時ニュースが流れた。
「今日午前、軍が人間の記憶を自由自在に操る兵器を開発したことを、正式に発表しました。」
その会見の映像に、見慣れた顔の人物が映っていた。
「博士だ…」
「嫌、そんなのって…私達は一体何のために…何のために!?」
驚くことに博士は生きていた。
そういえば博士の死を正確に確認していなかった。もしかして‥川に捨てた後自力で?
僕達は再び空を見上げた。
空は茜色に染まり、その先は何も見えなかった。
完。
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