代理主人公とミルクティー

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ここはどこだろう………… 僕は今自分の生まれ育った町で迷子になっている。 しかし、この状況は今までに何度も体験してきた。 なぜかと聞かれればすぐさま僕はこう答える。 「迷うことが好きだから」 こんなことを言っては変だと思われるかもしれない。 でも誰だって迷った時、なにかわくわくするものを感じることがあるんじゃないだろうか。 その延長線上みたいなものだ、おかしなことはない。 だが、今日はいつもと様子が違う気がする。 こんな路地裏らしい路地裏、僕の知る限りこの辺にはない。 でも……迷うことが好きな僕からしたらこれもまたよくあることなんだけど。 そしてそのまま進んでいったが 途中でおかしなことに気づいた。 こんなに暗い路地かなり奥までいけるだろうと思ったのに案外すぐに抜けてしまった。 そして、路地を抜けたところにあったのはもうつぶれてしまったバーのような建物。 しかし、そこはただのバーには見えない。 いや、おそらくバーではないだろう……。 なにもない殺風景な店先にあったのはひとつの看板だった。 『代理主人公承ります』 そこにはただ、そうとだけかかれていた。 「早く引き返そう」 僕の生存本能のようなものがそう言った気がした。しかし僕はあのとき自らの生存本能に逆らった。 なぜあの時ドアを開けたのか。 今でもわからないがたぶん本能にもまさるなにかがあったんだと思う。 『カランカラン』 ドアについている鈴がそんなもっともらしい音を鳴らした時 僕の意識はすでにそこにはなかった。
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