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「さて、と……」
女性が身軽に仕立てられた旅装束のレザーマントを緩やかに翻すと、辺りには累々と横たわる覆面達、数十人の姿があった。
しかし、その全員が息をしており、先ほど倒れた男と同じく、ただ気を失っている状態。
すぐに目を覚ますほど浅くはないが、拘束するなどの手筈も取らず、その場に転がしているだけである。
だが、そんな状況は気にも留めず、女性はキョロキョロと周囲を見回し始めた。
生い茂る森の中、切り開かれた広場に建つ大きな屋敷と、その前で気絶している覆面達……
……と、他には何も見当たらない。
暫く“探しもの”を続けていた女性だが、目当ては見つからない様子で徐々に目つきが悪く、もとい表情が険しくなっていく。
やがて、女性は探す事を止めて大きく息を吐くと、両手を腰に、瞼をスッと閉じた。
そして……、カッと開く。
「ミルザッ!」
その怒鳴り声にビクリと肩を震わせる者の姿が、広場を囲む木々の内、一本の太い木の陰にあった。
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