1.opening

5/6
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
それだけ答えると、「お湯だけ沸かしてくるね」と言い残し、再び恵莉乃はカウンターへと戻っていった。 初木はその後ろ姿を見送った後、本来の用件を思い出したのか、少し大きめの声でカウンターにいる恵莉乃へと呼びかける。 「そっか…そうだ、エリー」 「なーに、なお?」 「今日の夜。バイトが終わってから、暇?」 「ん、暇だよー。あ、もしかして デートのお誘いかな?」 「からかわないでよ。そういう事じゃなくて」 「冗談だってばー。何のご用かな?」 「ええとね……ん」 そんな他愛の無い会話をしつつ、恵莉乃がトレーを持ち、初木の席へと戻ってくる。初木は彼女に目を向け、話を切り出そうとした。しかし、初木はトレーを見るなり沈黙してしまった。 視線の先には、ヘーゼルナッツ入りのキャラメルドーナツとコーヒー。 「頼んだのと違うんだけど」 「ごめんねー、オールドファッションは売り切れちゃったみたいなの」 「エリー…僕が甘すぎるドーナツ苦手だって事知って…」 「知ってるよ♪だから、紅茶じゃなくてコーヒーにしといたよ。なおって、キリマンジャロ好きだったよね?」 「まあ…そうだけど…。でも、いいか。これはこれで美味しそうだし」 初木は、いただきますと一言だけ言った後にドーナツにかじりついた。 恵莉乃は初木の向かいの席に座ると、彼の顔色を伺いつつ再び話を戻した。 「それで?さっきの話の続きは?」 「むぐ、そうそう。エリー、このメール、見た?」 「…え?…………これって…」 初木が恵莉乃に見せたのは、彼が数刻前に受信したメール。 その本文に、恵莉乃の目が釘付けになる。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!