2.わたしたち と 彼女の世界

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最初に異変が起こったのは、5ヶ月くらい前だった。 わたし、蓮見恵莉乃は、自らの分身―『はの』として、いつものように『The World』にログインした。 栗色の長いツインテール。 密色の大きな瞳。 所々にリボンやフリルがあしらわれた、ロリータファッション風にアレンジされた黒の着物。 ジョブは錬装士。 じっくり考えて決めたキャラデザインだったから、わたしは『はの』を操作するのが楽しくて仕方なかったんだ。 丁度その日は、皆とクエストに出掛ける約束があった。 ジョブエクステンドっていう、たまにしか発生しないレアなイベントがあったから。 ジョブエクステンドっていうのは錬装士のレベルをアップさせて扱える武器の数を増やす為のクエストのことだ。 つまり、複数の武器を扱えるのが利点の錬装士にとってクリア必須なイベントってわけ。 おまけに見た目も変えられるから少し得した感じがするし。 わたしの場合はまだ1stフォームだったから、どうしてもクリアしておきたいイベントだった。 武器が自分の拳しか無くて、ちょっと不安だったしね。 わたしはいつもように、Δ悠久の古都 マク・アヌに訪れた。 連想されるのは海沿いの夕暮れの街。今日も沢山のPC達で賑わっていて、改めててこのゲームのプレイヤーの多さを実感した。 プラットホームを抜けた先、夕日が良く見える中央広場がいつもの待ち合わせ場所。 そこでわたしは、噴水の縁に寄りかかりながら、仲間の二人が来るのを待ちわびていた。 待ち合わせの時間まであと数分。 少し早めに来るのは、やっぱ礼儀として必要な事だよね。 それは、リアルでもネットでも同じ。 たとえそれが、顔見知りでも。 「なあなあ聴いたか!?ネットアイドルの埴井エミちゃんの新曲!」 「mjk!!!聴いてぬぇぇ!!オレとしたことがーッ!!」 「ヤバいよなぁアレ、まじヤベェ!!」 「決め台詞の『貴方の心臓、エミブレードで貫いちゃいますよ☆』っていうのかわゆすぎるわあああ!!!1」 少し口を閉じて耳を澄ませてみるだけで、いろんな会話が聞こえてくる。 このゲームの会話方法としては、チャットよりもマイクを通じての会話が主流だから、パーティ作ってないと耳がカオスな状態になっちゃうんだよね。
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