序章

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「撃て!! 撃てぇい!!」 恰幅のよい指揮官らしき男の合図により、数百丁の銃が一斉に火を吹き、戦車から巨大な砲弾が撃ち出された。 瞬く間に怒号と悲鳴、銃声が飛び交い地を揺らす。 功績を残せば地位や名誉勲章。 英雄と讃えられる舞台。 しかしそのような考えはここに来るまでに描く淡い夢物語だ。 戦場は耳が、腸(はらわた)が、糞尿が散らばる地獄なのだ。 生き残ることすらままならぬ者達が大勢いる。 血液の泥にまみれ、仲間の死体で自らを隠し、気がふれぬよう祈ることで精一杯だ。 射撃の合図が終わった後も、ひたすらに叫び続ける勲章バッチをぶら下げた男。 血走った目が飛び出る程見開き、ブルドッグのように口から涎を撒き散らしていることにも気付いてはいない。 だが、この指揮官だけが異常なのではない。 人が人を殺し合う狂気の中で、死をこれでもかと理解させられ、死んでもなお国にも帰れず、ただ鼠に食(は)まれていった過去の戦友。 いや、戦友だったと思われる肉塊に、未来の自分の慣れ果てを重ねて恐怖する。 こんな日々の中で誰が、どうして正気を保てるのか。 そして、それはここにいる者達だけの話しではない。 政府も、国も、世界すらもいずれ……。 五年も前より続くこの戦争に終わりは見えなかった。 むしろ激化の一途をたどり、次々と近隣国を巻き込みながら大規模な戦争へと発展していくばかり。 「平和など夢の中だけで有り得るものだ」 そう言い出す者さえ現れたこの頃、突如として戦いに終止符を打つ者達が現れる。 以後千年という長きに渡る波乱とともに……。
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