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会議室内は静まりかえっていた。
椅子に座っているのは顔すら描かれておらず、顔面中央部にA~Dなど一文字のアルファベットが描かれていた人物たちだ。
「なんかさ、俺、主役的なキャラがいいっていったけど、もうなんでもいいかも」
「俺は良キャラなら、使い捨てキャラでも妥協しよう」
AとDが緩やかに呟く。
彼らは、まだ存在しないキャラクター達。いわゆる魂のような状態だ。
ここでデフォルトをされて、作品という舞台に送りだされるのだ。
しかし、昨今のキャラ増加に伴い、今や目新しいキャラクターが難しい状況になってしまっていた。
会議室にたゆるタバコの煙り。
「おい、なんか新しいキャラクター案だそうぜ。どんより暗くなったって悪キャラしかでてこないぞ。みんなから愛されるキャラクターを作ろうよ」
Bの言葉に、Aがタバコの煙りを長く吐きだした。けだるい香りの塊が辺りに霧散する。
「はっ? なに、ボケてんの? だからそれがでなくてこんな空気になってんだろうが」
Aが嫌みったらしく声をだす。もうかれこれ3時間目に突入したために全員の集中力が切れて、イライラ感も最高潮に達していた。
「俺、考えたんだけど」
Cがメモ用紙に書いた文字を見つめながら提案した。肩を大きく張って、なにやら自信を持っているようだ。
「言ってみろよ」
「ああ、最近は恋愛物を重点にしてコメディ要素も追加した作品が多いだろ。だからキャラクターはイケメンかつ奇抜性があるほうがいい」
「だからその先をいえって。まだるっこしいな」
「主人公はイケメンだが、一日一回女子のウンコを食べなければ死ぬ」
「いさぎよく死ね」
「それスカトロだから。AVでもコアなジャンルだぞ」
表情を表すように、AとBのアルファベットがくしゃっとなっている。怒りが最高潮になったようだ。
「いやでも斬新なキャラクターだろ。これは他の追随を許さないぜ」
食い下がるCだが。
「キャラクターとして歩んでいけない道なんだよ!」
Aのごもっともな意見が飛びだした。深夜アニメでやったとしも、夜食に作ったカップラーメンを視聴者が吹くのは間違いない。
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