名残

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10月― 「さぁ,試合も終盤!!優勝を決めるのはどのチームか!!」 ある仕事帰り燿輔は電化製品売り場の前に足が止まっていた。 「次,インコースは駄目だぞ。外せ..」 「スクイズだぁ!!同点ー!!」 「だから言ったぢゃねぇかよ。」 彼の名前は波多野燿輔。 元高校球児だった彼はどこにでもいるサラリーマン。 片親の彼は高卒で就職。当時野球の才能は群を抜いていたもの,身長の低さでプロ選手への誘いもなく,片親の燿輔には家計の問題もあり大学進学を断念していた。社会人野球の道もあったが田舎の地元に硬式野球チームもなく,病気がちの母親から離れることもできなかった。もう野球の道を諦めていた。 帰り道にある電気屋さんに足を止めるのが燿輔の日課になっていた。 「こんな時間か... 帰らなきゃな」 野球の中継にくぎ付けになり,帰宅が夜遅くなることもしばしばあった。 高校を卒業して3年。 21才になる燿輔はまだ野球が大好きな野球小僧だった。 ある日― 会社の上司である山下さんが話をかけてきた。 「ぉう!波多野!日曜は暇か?」 「日曜ですか?まぁ一応...」 「草野球の試合があるんだが..人数が一人足りなくてな..」 燿輔は即答した。 「行きます!」 「助かるよ。じゃあ9時に集合で」 燿輔はその日から日課だった野球中継に目も暮れず直帰。 高校時代に使っていたマスコットバットを振り込んだ。 そして日曜― 「おう!波多野!こっちこっち」 誘ってくれた山下さんが手を振っている。 「おはようございます!」 山下さんの野球チームの仲間はなかなかの恐持てが集まっており体の大きな人がほとんどだった」 「お兄ちゃんよろしくなぁ。山さんの部下らしいね。怪我だけはせんようにね」 「足引っ張らないように頑張ります」 各自アップを済ませた後,試合が始まった。 燿輔はグローブの革の臭い,バットとボールの乾いた音,すべてが懐かしく感じた。 キン!!! 「ショート!!!」 燿輔は逆シングルで難無くさばき,一塁へ素早く送球した。 「アウト!!」 相手チームからも拍手が出た。 「波多野ー!!ナイスプレー!」 山さんも興奮していた。 迎える3番バッターが左打席に立ったとき燿輔は違和感を感じた。 「あれ?このバッター」 そう思った瞬間ピッチャーが投げた初球をジャストミート。 90mはある右翼線に打球は消えていった。
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