名残

3/3
前へ
/17ページ
次へ
ゆっくりとベースを回り始める。 「すごい。草野球にこんなバッターがいるのか...」 二塁ベースを回った時そのバッターランナーが声をあげた。 「あっ燿輔やん!」 「えっ」 ホームランを放ったバッターは幼馴染みの社(やしろ)高貴だった。 社はシニアリーグまで一緒にプレーした仲で,3年時には共に全国大会に行ったかつての仲間だ。 中学卒業後,社は地元である岡山から大阪の強豪校で一年生からレギュラーとして春夏4回の甲子園に出場している,まさに野球エリート。 いつも燿輔の一歩先をいっている人物だ。 試合後― 「3年前の甲子園以来やなぁ」 社が話しかけてきた。 「動き全く鈍ってへんなぁ。もぅ草野球しかやってへんの?」 「今日はたまたま助っ人で来ただけなんだ」 社の野球バッグに目がいった。 「福岡レジェンズ?」 「おーこれな。今九州の独立リーグでプレーしとるから」 社は高校卒業後,社会人野球を1年経て九州で新たに立ち上がった独立リーグでプレーしていた。 「まぁ今年までやねんけどな」 「なんで?野球やめるのか?」 「ワイプロ行くんよ」 社の顔が少し真剣になった。 燿輔は驚きを隠せなかった。 「す,すごいじゃないか!!」 「福岡の球団が視察によう来てくれててな。アマの野手ならワイを1番で指名してくれる言うてくれてな」 「すごいしか言葉が出ないよ!頑張れよ!」 社が少し複雑な顔つきに変わった。 「あ,あぁ..。ワイもシーズン終わってトレーニングに帰ってきてんねん。連絡先教えてぇな。トレーニング付き合ってほしいんやけど..」 「俺でよければ!」 連絡先を交換して二人は別れた。 燿輔は帰ってからもドキドキを押さえられなかった。 「高貴がプロかぁ...」 燿輔の母親も喜びを隠せない。 「あの高貴君がねえ。今度ウチに呼びなさいよ。お祝いしないと」 「そうだね。高貴も母さんに会いたいって言ってたよ」 自分の友人がプロに行くことに燿輔は心から喜び,誇りを感じていた。 しかし,どこかで手の届かないところに行ってしまう寂しさと孤独感を感じていた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加