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暗闇のなかに、わたしはいた。
なんにも、見えない。
なんにも、触れない。
けれど。
音だけは、聞こえた。
人々の話し声、笑い声、ときおり怒声、悲鳴。
様々なものの気配。足音や息遣い、衣擦れの音……。
枯葉が立てる、もの悲しくもやさしい音。いまは、秋?
人間も、動物も、植物も。
すべての存在が奏でる息吹きだけが、唯一だった。
わたしは、なんだったっけ?
体が、魂が鉛のように重く、なにも考えられない。
だから、ただ、歌った。
生命のメロディーに乗せて、ひとりきり。唄っていた。
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