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そのうえ異性の前だとやたらと緊張してしまって、会話が思うように繋がらない。
だから女子にもモテない。
名前は、政所 龍一(まんどころ りゅういち)。
親しい友達には『龍~』と呼ばれている。語尾を延ばすのだ。
龍一の一の字を、語尾を延ばす意味合いで使っている。
彼はファミリーネームで呼ばれることを嫌っていた。
小さなころから『まんどころ』と言う名前の響きのせいで、随分と揶揄されたことがあったからだ。
隣を歩く長身の生徒の名前は、小笠原 卓巳(おがさわら たくみ)。
龍一とは高校に入学してから知り合った友達であるが、今では一番の親友と呼べる仲であった。
一年ニ年と二人は同じクラスである。
彼には彼女がいるが、最近は不仲らしい。
二人は何気ない日常の会話をダラダラと交わしながら駅前を目指して歩いていた。
田舎でも都会でもない町並み。大通りには車が犇めきあいながらに走り、背高い近代ビルがちらほら建ち並んでいる。
しかし、ビルの脇にある小道に入って行けば、百メートルも進まないうちに住宅街に景色が変わる。
凶悪な犯罪も少ない平和な町であった。
卓巳の自宅は、電車に乗って三駅越えた先にある。
龍一の家は、駅を越えた裏側の更に二十分ぐらい歩いたところにある。
まだ二十年ものローンが残っているが、父親自慢の一戸建てであった。
両親と姉での四人暮らしだ。
「じゃあな、龍~。また明日」
「またな」
二人は駅前で別れた。
卓巳は駅の改札口を目指して行くが、龍一は家の方角ではなく、駅前にある本屋へと足を向ける。
今月の小遣いで買えなかったオカルト本を立ち読みするためであった。
龍一が本屋の前に到着すると、不思議そうな顔で足を止めた。
五階建ての雑貨ビル。
一階二階は、すべて本屋だが三階テナントには喫茶店と美容院が入っている。
四階五階は会社事務所が幾つか入っている。
本屋の店名は『三日月堂』。
このビルの私有者は、この三日月堂の店長の父親である。
いつも龍一は、この本屋で本を買う。
ここで手に入らない本は、顔見知りで仲の良い店長にお願いすると、取り寄せてくれる。
しかも、本が届くと携帯電話にメールで報せてくれるし、お金がない時は来月の小遣いまで待ってもくれる。
だから龍一はインターネットで本を買ったことがない。
それどころかここ数年は、この本や以外で本を買ったことがないぐらいだ。
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