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だが、凡人の中の凡人である龍一には、そのような超能力が備わっていたわけでもなく、幾ら好きでオカルト本を読みあさったとしても、備わるわけでもなく、ただ悔しい涙を飲み続けてきた。
欲しい。
龍一は、年中欲しいと懇願していた。
それを――。
それを、この老婆が見破ったのである。
一瞬、龍一の脳裏に占い師とは恐ろしい心眼を会得しているのかと、脅威にも似た尊敬の念を抱いた。
「超能力、要らないの?」
「要ります……」
老婆の言葉に龍一は、ポロリと本音を返してしまう。
「じゃあ、あげてもいいわよ」
「えっ!?」
心臓が止まりそうなほどに仰天した。
だが、同時に警戒心も高まる。詐欺かと疑う。
「さしあげてもいいけど、どんな超能力が貴方に備わるか、私にもわからないわよ」
頭が混乱する龍一。
とても疑わしい話だが、超能力が欲しいのは子供のころからの夢である。
怪しいが、この場を離れられない。
「お金は、持っていませんよ……」
ついつい口に出た言葉であったが、老婆は皺だらけの顔を微笑まして「お金は要らないよ」と言った。
「じゃあ、何か他の物を要求するとか、何か条件でもあるのですか?」
「別に何も要求はしないわよ。しいて言うなら、『恋』かしらねぇ」
老婆は言いながら頬を赤らめ横を向く。
ちょっとキモイ。
「でも、条件はあるわよ」
視線を龍一に戻した老婆が言った。
やはり何かあるようだ。再び警戒を強める。
「私は誰かに超能力を上げられるけど、どんな能力が目覚めるかは指定できないの」
「選べない? サイコキネシスとかテレパシーとか、どんな能力が備わるかわからないと」
「難しいことはわかんないわ。でも、様々な個性的な能力が芽生えるわ。私の超能力は、他人の心にある未知の扉を開く能力なの。だから、さしあげると言うよりも、鍵を開けてあげるような感じかしら」
この人も超能力者なのかと龍一は驚いた。
「鍵を開ける……。人間のブラックボックスを開くように……」
呟くように言った龍一の言葉に老婆が反応する。
「そうそう、昔のことだけど、私が超能力をあげた人が、私の能力を『パンドラキー』とかと呼んでいたかしら」
パンドラキー。
パンドラの箱を開ける鍵を意味する能力なのだろう。
心のブラックボックスを開けて、超能力者として目覚めさせる能力。
この老婆は、今まで何人もの超能力者を生み出してきたというのだろうか。
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