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「へぇ~、つまんねー奴」
パイプ椅子に仰け反りながら花巻が言葉をもらす。
花巻を無視して三日月堂が「キーロックを望んだのだね」と言った。
「どんな能力だったの、その人は?」
柔らかく微笑みながら巨乳の女性が訊いてくると、三神夏子は遠慮なく答えた。
「つまんない超能力よ。周囲の温度を測らなくても、寸分狂いなく悟れる能力だったわ。それを引き換えに与えられた新たなる趣味ってやつが、なんともね……」
「変態的だったのね……」
巨乳の女性が、頬を片手で押さえながら可愛そうにと同情を露にする。
「それで、向こうさんも望んだから、キーロックしてきたわ」
「それはご苦労さまです」
三日月堂が笑顔で言うなか、小説家がホワイトボードから話題に上がっていた男の写真をすべてはずし始めた。はずした写真を鞄に仕舞う。
今度はケバイ女が眠たそうな眼差しで三神夏子に訊く。
「先月の二人は、どうなったのよ?」
答えたのは三日月堂だった。
「あれれ、報告しなかったっけ。二人とも接触積みだよ。先月は、爺さんも婆さんも、一人ずつしか異能者を産まなかったしね。直ぐ見つけられたんだよ」
「あらぁ、そうだったの」
「男のほうは、キーロックを選んだよ。妻子がいたから、異能者同士にしか恋愛感情が持てないのが問題だったぽいよ。予想以上に奥さんへの愛情が薄れたことに、焦りを覚えたらしい」
「あー、やっぱり結婚してる人だと、夫婦揃って異能者にならないと、日常生活がきついのね~」
「仮面夫婦は、大変ね~」
ケバイ女に続いて巨乳の女が軟らかい笑顔で言った。
二人とも恋愛話には、良く食いついて来る。
「じゃあ、先月爺さんが作った女の異能者は、どうなったのさ?」
「何度か会ったんだけどね。私が刑事だから、話がこじれちゃってさ。いまだ交渉中よ。まあ、極端に悪いことはしないと思うんだけど……、若くて血気盛んなのが危うくてね。でも、なんとか説得するわ」
三日月堂が「いつも済みません」と、三神夏子に頭を軽く下げる。
「まあ、あの子は後回しにして、先にその子に接触するわ」
そう言いながら写真の少年に視線を合わせる。写真の下には『政所 龍一』と名前が書かれ、いつの間にか住所まで書かれていた。
花巻が、紙切れに住所を書いて、小説家についさっき渡していたのだ。
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