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会議室に帰ってきた三神夏子が、ホワイトボードの写真を見ながら三日月堂に問う。
「ねえ、三日月堂。何故に会議の時に、この少年について語らなかったの?」
「どういうことですか?」
小説家の千田が、何を話し出したのかと二人に訊く。どちらでもいいから内容を明確に答えてもらいたい様子であった。
三日月堂が答える。
「いやね、あの二人が思ったよりも早く少年を特定したのでね。それを聞いたなら、どうやら私の勘違いだったようでしたし」
「じゃあ、昨日言っていたのは、貴方の勘違いだったの」
三神夏子の言葉に三日月堂は「多分」と答えた。
「多分って、どういうことですか?」
まだ話が見えない千田が再び問う。
「この写真の少年がね、私の知り合いというか、店の常連というか、まあ、良く似ている子がいてね」
「え、そうだったんですか?」
「昨日、それについて夏子さんには言ってあったんですがね。まあ、似てると言っても、顔立ちは似ているが、感じが随分と違うと言うか……」
実に歯切れが悪い。
「なんですか、それにしても曖昧な表現ですね」
「似ているが似ていないってことなの?」
小説家と女刑事が、はっきりしない三日月堂の話に怪訝な顔を見せる。
「似ているけど、目つきが違うんですよ」
「目つき、ですか……」
「そう、目つきの感じが違いすぎて、別人に見えるのですよ」
「どんな風に違うの? もっと具体的に表現できないかしら」
三神夏子に言われて少し悩んだ三日月堂は、両手の人差し指で自分の両目を釣り上げながら言った。
「もっとこう、目が鋭いと言いますか、尖っていると言いますか……」
二人は三日月堂の作り面を見たあとに、ホワイトボードの写真を見直す。
「こっちの少年は、随分と穏やかと言うか、優しげと言うか……。僕が知っている少年と違うのだよ」
「不良少年、そんな感じなのかしら?」
「いいや、どちらかといったらね、一本筋が通っていそうな感じなんだよ。頑固な強さを秘めた顔つき。こんなにもろそうな少年じゃないんだ」
小説家がホワイトボードから龍一の写真を一枚取って言う。
「写真だから、イメージが違ったとか? 写りかたの問題では?」
小説家の言いようにも一理ありそうである。
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