18311人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあ、今回は慎重に行こうと決めたんだから、そうしましょう。ねえ、二人とも」
三神夏子の言葉に二人の男が頷いた。
「でも、三日月堂。念は入れて損はないでしょう。その『りゅうじ君』の電話番号を教えてくれないかしら。私のほうでも彼を調べておくからさ」
刑事としてのルートを使うのだろう。職権乱用だが、今は心強い手段である。
国家権力は、やはり偉大である。
「そうですね。本当はプライベート情報だから、教えるのは心苦しいのですが、ことがことですからね……」
と、言いながら三日月堂は携帯電話を開いて番号を女刑事に見せる。
夏子は番号を手帳にメモると「じゃあ、私も帰るわね」と言って踵を反した。
扉の前で「おやすみなさい」と手を軽く振ると会議室を出て行ってしまう。
「本当に、ただ似ているだけでしょうかね?」
女刑事を見送った小説家が、まだ今一つ納得行かないのか、話を蒸し返した。
「同一人物か、似ているだけか、言い出した僕にもわからないぐらいです」
「まあ、『りゅうじ』は夏子さんに任せて、『龍一』は、あの二人に様子を見ていてもらいましょう。ちゃんと調査すればはっきりしますよ」
「あの二人に、このことを知らせますか?」
花巻陸男と友錦燐火にだ。
「追々僕から話しますよ」
「その辺は貴方にお任せしますよ、三日月堂さん」
そう言いながら小説家も出口を目指す。
「では、私も帰ります。また」
「はい、おやすみなさい」
小説家を見送ると、三日月堂はまた独りとなる。
その後も彼は、五階の窓から通りを走る車のヘッドライトを眺めていた。
やはり闇の念写が脳裏から離れないのだ。
不安が強く残った。
最初のコメントを投稿しよう!