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昨日と状況が変わらない龍一の朝。
まだ姉は怒っている。朝食を同じテーブルで共にしても、会話どころか目すら合わせてくれない。
仏頂面の姉は、さっさと食事を終え、無言のまま家を出て会社に向かってしまう。
姉がいなくなってもリビングには曇った空気がこもり残っていた。
父も母も黙ったままだ。龍一は気まずい表情で、朝食を続ける。
これは、ただ謝る以外の手段を講じなければと考え始めていたが、なかなか考えは纏まらない。
やはり女性の相手は難しい。異性に対して晩熟の龍一には、女心は難しすぎる。
例え実の姉であろうとも、何を考えているのか理解できない。故に、どうしたら姉の機嫌が直るかも答えが出ないでいた。
朝食を終えた龍一が時計を見る。もう学校に行かなければならない時間であった。ごちそうさまを述べると自室に戻って制服に着替えた。
玄関を出ると、いつもと変わらない笑顔でボーイッシュな幼馴染みが待っていた。隣の家の月美である。
「おはよ、龍~ちゃん」
「月美、おはよう」
龍一は幼馴染みに挨拶を返すと並んで歩き出す。
いつもと変わらない月美との登校に安堵を感じる龍一。
ここ数日で、この感覚は確信に近いぐらい、よく思う。やはり彼女と一緒にいると心が安らぐ。
しばらく会話らしい会話もなく歩く二人だったが、月美の顔を横目で見ると、随分と機嫌が良さそうな表情をしていた。昨晩のハプニングが嘘のようだ。
時間は、あっというまに過ぎて行く。二十分も歩くと大きな駅の建物が見えてきた。素度夢駅である。
そのころになって、月美が思いがけないことを言い出した。
「ねぇ、龍~ちゃん。今日の帰り、暇?」
「うん、これと言って予定らしい予定はないけど?」
龍一は、小学生のころから帰宅部一筋である。基本的に放課後は暇である。
真っ直ぐ家に帰って本を読むか、本屋に立ち寄って立ち読みに耽るか、たまに友達と何処かに遊びに行く以外、放課後はフリーマンである。
塾にも通っていない。そこまで勉強に熱心でないが、人並みの勉強量で人並み以上の成績が取れるのだ。
龍一の通う蓬松高校は、そこそこの進学校であった。月美の通う女子高よりも数段レベルが高い。
月美も龍一と同じ学校に通いたかったが、学力が龍一に追いつかなかったのだ。
月美が純白の歯を見せながら笑顔で言う。
「じゃ~さ~、今日のさ~、放課後さ~」
もったいぶる口調がじれったい。
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